Dolaの観劇・鑑賞日記

演劇やアートに心ときめく日々の記録です

音楽劇『兵士の物語』感想〜名人たちの饗宴とダブルイベント

■出演:石丸幹二首藤康之串田和美、渡辺理恵
■演奏:郷古廉ほか
■作曲:イーゴリー・ストラヴィンスキー
■台本:シャルル・フェルディナン・ラミューズ
■演出:串田和美
■劇場:青山スパイラルホール(9月29日)
 
語り手は石丸幹二さん、兵士役はバレエダンサーの首藤康之さん、悪魔役は演出も手がけられた串田和美さん。。。
そこに、若いエネルギーとエレガントさをもった郷古廉さんのヴァイオリンが絡む。バレエの渡辺理恵さんは初見でしたが、王女の気品が香り立つ踊りでした。
 
これだけ各界の実力者が揃うと、全く演者本人を感じさせず、ぐいぐい物語の世界に引き込まれるんだなあ、と実感。
<ストーリー>

休暇を得た兵士のジョゼフは歩いて故郷を目指していた。肩に背負った袋からヴァイオリンを取り出して弾き始めると突然、老人に化けた悪魔が現れ、字が読めないというジョゼフを丸めこんで「金のなる」本とヴァイオリンを交換させる。

 

 このあと、ネタバレしています。

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最初に劇場のロビーに入ったところから、まず驚きました。
パリの芝居小屋風のセットで、100年くらい前の衣装の男女が呼び込みを始めたんです。すぐに2人も役者さんとわかったのですが、男性は武居卓さん、女性は下地尚子さんで、一気にロビーが華やいだ雰囲気になりました。
 
続いて楽士たち。Vn.の郷古廉さんと管楽器の楽士さんたちが、楽しいマーチを演奏しはじめ紹介されていきます。
おお、おしばいをみるんだなあ、非日常だああ〜と気分は高まる一方。

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◇物語り引き込む、名人たちの饗宴

さて、本編。
『兵士の物語』はあまり舞台セットを使わない演出も観たことがあるのですが、今回はしっかり背景のセットがあり、花道も存分に使った演出。Vn.の郷古さんも立って、客席からお顔が見えるように演奏されていました。
 
パリの芝居小屋で『兵士の物語り』を上演するという設定で、物語が進みます。
役者さんたちは、”さすが”としか言いようがない巧みさ。
石丸さんは、芝居小屋の支配人役を兼ねていて、実は商売っ気まんまんのしたたかさを、上品な佇まいの裏に匂わせていました。
串田さんは悪魔役なので、いろいろな姿に扮するーーニコニコしているところが、かなり不気味で、あ〜悪魔はこんなふうに忍び寄るのね、っていう感じ。
 
そして、首藤さん。
物語の中盤以降ではじめて、華麗なバレエを魅せてくれました。
手と足がななめにす〜っと伸びて始まったのですが、空間を歪めてどこまでも伸びてしまいそうな身体の表情で、「ああ〜何か素敵なことが起こりそう」と心がぐうっと動きました。
 
結局、兵士は悪魔に翻弄され、「二兎追うものは一兎を得ず」という教訓のもとに、幸せにはなれませんでした。
ラストの影絵には、得意そうな悪魔の後ろから、うなだれて歩く兵士の姿が。
兵士は何にも悪いことしていないのに!!
やりきれない感情も抱きつつ、カテコの拍手を力いっぱいに。
 

◇役そのものと役者さんを観る、ダブルイベントをめぐって

この舞台を観て、ちょっと気づいたことがあります。
公演前の呼び込みから始まって、ず〜っと物語の世界観に浸りました。
石丸さんが、首藤さんが、というように“役の中の人”のことは考えなかったです。
 
私は舞台を観るときには、役そのものと“役の中の人”つまり役者さんの両方を楽しんでいます。「ダブルイベントを楽しむ」ということらしいですが。
役者は現実には役柄の人ではないわけで、「どんなアプローチのよって役を生きているのか」に、とても興味があります。
もう少し言うと、「役者は、まず役者であることを演じている」、そして「その演じた役者がさらに役を演じている」と思っているのです。
 
ところが、『兵士の物語り』では、役者のことは全く浮かばないまま、兵士や悪魔や劇場支配人を見ていました。
ーーーどういうことなんだろう?
 
たぶん、1つは圧倒的な役者さんたちの技量。もう1つは、作品や演出のもつ力なのかな。
語弊があるとは思うけど、作品や演出が好みではないと、どうしても生身の役者に関心が行きやすいです。
生身の役者は、そこに存在するリアルな人間なのだから、演技がどうこうの前に体温を感じるし、役者というその人の人生を思えば、いっそう興味が湧いてきます。
 
よく2.5次元舞台の役者さんたちは、「2次元(アニメやゲームのキャラクター)を3次元(舞台)に起こすときに、2次元に寄せるか3次元に寄せるかのバランスを図る」と言っていて、観客の期待する役のスタンスに応えようと工夫なさっている。
かつ、鈴木拡樹さんのように「人の前では、自分のめざす役者の姿であろうと努力している」と見える役者さんもいらっしゃる。
 
なるほど、事実はいろいろあって、楽しみ方もいろいろなのだけど、劇場の空間に一緒に居合わせているという手触りが、私にとって生の舞台の最大の魅力かもしれません。
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