Dolaの観劇・鑑賞日記

演劇やアートに心ときめく日々の記録です

舞台「No.9 不滅の旋律」東京公演感想〜歓喜へ

■出演:稲垣吾郎剛力彩芽片桐仁村川絵梨、鈴木拡樹ほか

■演出:白井晃

■脚本:中島かずき

■劇場:赤坂ACTシアター(11月20日、27日) 

⭐️とにかく、ベートーヴェンに扮した稲垣吾郎さんが素晴らしい熱演でした!!

1800年、ウィーン。作曲家ベートーヴェン稲垣吾郎)は、聴覚障害に犯され始めていた。音楽と孤独に向き合い、身分の差から愛する人ともうまくいかず、その心は荒んでいく。しかし、ピアノ工房で出会ったマリア(剛力彩芽)や弟達をはじめとする周囲の人々との触れ合いが、彼に変化をもたらし始める。(公式サイトより)

ラストシーンに向かって稲垣さんの集中力がぐんぐん高まり、劇場全体が歓喜のクライマックスに。

演出も他のキャストも、そして観客さえも、その歓喜の瞬間をめざして共同作業をしたように思います。すっきり爽やかな心の運動のような。

第九交響曲は、演奏会でも最後の「合唱」に昇天してフロイデ!っていう達成感があるけれど、この舞台もプロの技にしっかり酔わせていただきました。

 ベートーヴェンを支えるマリア役の剛力さんは、気丈な感じが似合っており、片桐さんをはじめ他の役どころも前に出過ぎず、時おりスパイスを聞かせて心地よいバランス。

お目当の鈴木拡樹さんは、ベートーヴェンの弟・ニコラウス役で、兄の気難しさに戸惑いながらも、細かい目配りと、いざというときの動作が速くて実務能力が高い。という弟のキャラクターをうかがわせていました。でも、もっとできるよね?

 最初からフィクションだと思って観ていたので、人物の描き方に違和感はありませんでしたが、まだ公演は1月まで続くので、少し変わってくるかもしれません。

というか、それが楽しみです。

 

以下、ネタバレを含みます。 

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◇政治は変わるが、芸術は不滅でした

再演で脚本に手を入れられたそうですが、あえて時代背景やベートーヴェンの苦悩を分かりやすくしたストーリー。

ナポレオンの盛衰を時間軸とし、貴族社会から市民社会への転換期の様相をシンプルに打ち出して、

「政治は変わるが、芸術は不滅だ!」が強調されていました。

ベートーヴェンの音楽はもともとよく聴いているので、「芸術は不滅だ!」は実感できるところです。

何よりも、音楽の生演奏が雄弁でしたね。舞台脇に2台のピアノが置かれ、末永匡さん、富永俊さんが次々とピアノソナタを聴かせてくれました。アンサンブル役を兼ねたコーラス隊も迫力満点。

楽曲はあの時代、そう200年以上も前に作曲され、今なお愛されている!!

    

◇とても心地よい舞台

ストーリーのラストが「歓喜」ということもあり、全編を通して辛い気持ちになることは全くありませんでした。

ベートーヴェンの周囲にはメルツェルやヴィクトルといった、やや胡散臭い野心家もいるものの、彼を理解しようとしてくれた人たちばかり。

「人間は難しい・・・」と孤独を感じても、パトロンを得られる程度には人付き合いができる。弟たちは優しく、ピアノ工房も理想を持って創作に励んでくれるーー愛したヨセフィーネはベートーヴェンを裏切るけれど、魂の奥深くで通じ合っているーー甥のカールは命をとりとめ、この先もマリアという有能な支えがあって。

ーーなんだか、幸せな人では?

いえ、少年のうちから家族を養わねばならず、父親から受けたトラウマ、失われる聴力、貴族社会や権力への抵抗と、多くの苦悩を背負っていたのでしたね。

ですが、舞台ではベートーヴェン、あるいは稲垣さんが超人的に強くに見えて、「不幸や政治の圧力も乗り越えられるはず!」と信じられたからかもしれません。

ともかくも、膨大なセリフを回し切り、信念と情熱を表現し続けた稲垣さんに感動しました🎶

 

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◇ニコラウスさんにも期待

鈴木拡樹さんファンなので、どうしてもニコラウスを追ってしまいますが。。。

実際のベートーヴェンの弟のうち、カスパールは音楽の仕事をしたようですが、ニコラウスは薬剤師で、薬局経営に成功している人なんですね。

ベートーヴェンの弟たちのことを悪く書いている書籍もありますが、少なくともニコラウスは合理的な近代人で、適応能力が高かったのではないかしら?

 

という目で、舞台の拡樹さんを観てたんです。

ベートーヴェンの弟ニコラウスは、ずっと兄を敬愛している・・・という印象で、若い年齢から中年に至る年代ごとの兄への敬愛を、よく演じ分けていました。

まあ、よく気がつく弟で、対応が速い!!誰かが暴力を振るったり激昂したりすると、まっ先に身体を張って止めにかかる。三日月宗近は殺陣の時、広い歩幅で翔ぶが如く動くけれど、ニコラウスの俊敏さもなかなかだと思いました。

マリアへの告白は、可愛いですね。

 

そのニコラウスも、混乱の時代に事業で成功しているわけですから、”清濁併せ呑む”タイプだったのでしょう。

警官に賄賂を渡す場面の指の動きが、まるで手品のように鮮やかで、「成功するにはピュアではいられない」の片鱗を見た気がしました。

ベートーヴェンがマリアに支えられて音楽を取り戻す、最後の長いシーン。居合わせたキャストたちはじっと2人を見つめています。

ニコラウスも固い表情をほとんど崩さないのですが、ベートーヴェンに再生の兆しが見えた時、わずかに目尻が動きました。目元が光っていたかもしれません。

兄とマリアの言葉を聞きながら、ニコラウスはずっと何を考えていたのだろう?

もちろん兄の復活を祈っていたはずだけれど、実業の世界に身を置いた彼自身も、若い頃の純粋さを思い出していたのでは。。。

楽家の家に生まれながら、音楽の道には進まなかったニコラウスの心情を、拡樹さんがどのように捉えているのか、ぜひ知りたいところです。

 

次はクリスマス時期に横浜公演を観る予定です。ちょっとしたたかなニコラウスも見たいと期待しています。

 

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