Dolaの観劇・鑑賞日記

演劇やアートに心ときめく日々の記録です

リーディングドラマ「シスター」感想ー勝吾さん演じる弟の渇望ー

■出演:森口瑤子・鈴木勝吾

■演出:鈴木勝秀

博品館劇場(8/30)

 =姉弟が繰り広げる会話から、生み出されるのは絶望なのか、希望なのか=

姉(森口瑤子さん)と弟(鈴木勝吾さん)の会話劇。

とても好きな世界観でした。徐々に真実が明らかになっていくのですが。。。

森口さんは時にシニカルで優しい姉、そして勝吾さんはひりひりするような感性を体現してくれました。

このあとは、ネタバレがあります。

f:id:gina-sky:20180910234814j:plain

 

◇舞台セットはテーブルと椅子だけ。テーブルをはさみ2人が座って話し始めます。

姉は3歳のときに亡くなっており、その後弟が生まれたので、2人は共に生きたことがありません。しかし、ときどき弟のもとに現れて話をするようです。

朝食のことや散歩など日常会話が続くのですが、弟の孤独な人生が浮かび上がってきます。そしてラスト近くに、それまでの会話は病室の中でのことで、弟は薬物で自殺を図りながら、自分で救急車を呼んだことが暴かれます。弟の生死はわかりませんが、姉はさりげなく弟に「生きてほしい」と言い、弟は「あんたが姉さんでよかった」と言って幕を閉じました。

◇ 流れる会話の中で、2人のセリフ回しがどんどん緊張感を高めていきました。

森口さんの姉は、挑戦的なもの言いを含めながら弟の心を開きます。ベタッと感情に溺れず、長い間、弟を見守ってきたことが伝わって、とても共感が持てました。

勝吾さんは、実年齢が29歳ということもあり、分かっているけれど現実と折り合いがつけられないでいる青年が、みごとにはまっていました。

◇ときおり感情をザワつかせるSE、そしてジャニスイアンの歌

会話の途中で電気的なノイズのようなSEが入り、耳から刺激されます。

そして、何より印象に残ったのは、劇中、70年代にヒットしたジャニスイアンの曲が流れてきたときでした。

勝吾さんは台本から少し顔をあげ、わずかに唇を歌詞の形に動かしたのです…

♪~At Seventeen〜♪ 歌詞のその部分だけを。

ぐさっときました。軽めのサウンドで場の緊張は緩んだけれど、詞は誰にも愛されない孤独を歌ったもの。

勝吾さんと音楽とのシンクロは、とても自然に見えました。役柄の弟が、10代のころからずっと心の奥に絶望を抱えていたような。 

 ◇弟が渇望していたこと

初見だったことと台本を読む表情に見入ってしまったので、2人が語り合った死生観を細かく把握できたわけではありません。

でも弟はこの先、死に囚われながらも、自分の中に生き物としてのたくましさを見てしまった以上、生を引き受けていくのだと感じました。 

弟が自殺を図ったのは、恋人ができたからでした。愛し合っていたのに急に怖くなった!その愛を失ったときに訪れる、もっと深い孤独を恐れたのだと思います。でも、無意識のうちに救急車を呼んだのは、身体に備わった生きる欲求だったのでしょう。

いえ、弟は生を渇望しているからこそ、孤独の闇を知ったのかもしれません。

 

それが、病室で姉と話している間に、自分の本来の望みに直面せざるをえなくなったーーー最後の言葉「あんたが姉さんでよかった」は、孤独と向き合うふん切りがついたのだと思います。今まで寄り添ってくれた姉は、もう現れずに済むかもしれません。

ラストで初めて、ふわっと暖かい空気が流れたようでした。

夏の終わり、こんなふうに「♪17歳の頃」を聴けるとは思わなかったな。