Dolaの観劇・鑑賞日記

演劇やアートに心ときめく日々の記録です

舞台「時子さんのトキ」感想2〜パンフレットから

舞台「時子さんのトキ」のパンフレットは全体が1つのフォトストーリーのようで、見入っていると舞台とは少し違った印象。作品を舞台と写真の両方から味わえました。

舞台は時子さんのモノローグで展開され、時子さん以外の登場人物は白い衣装をまとい冷たい印象だったのですが、それは時子さんの感じ方だった。。。

パンフの中で映し出された電信柱がたくさん立つあの街には、きっと別の世界があったのでしょう。

 次からネタバレします。

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パンフレットのキャスト写真は登場人物に扮していますが、衣装や表情にリアリティがあり、8年にわたる現実を生きていると思いました。

🔶時子さんと翔真くんのエピローグ

パンフの後半に見開きページに、2人が街の中で別れたと思われるカットがあります。舞台では翔真が土下座したのが別れだったので、やりきれなさが残りましたが、パンフの写真にホッとしました。静かな風の音が聞こえるような、印象的なエピローグです。

左ページに時子さん、右ページに翔真くん。各ページは上下に2カットが並びます。上段の時子さんは不安げな表情。翔真を見送っているのですね。“幸せだからいいと思っていた”のに、なぜこんな結果に・・・という気持ちでしょうか。そして下段の写真はくるっと踵を返した後ろ姿です。腕を後に組み、ちょっと電信柱を見上げ、8年間は終わったと。

一方の翔真は上段で振り向いてわずかに微笑み、下段は後ろ姿で路を歩いていくーー照れくさいのか頭に片手をあてて。。彼は夢に区切りをつけ、まだ頼りないながらも前に踏み出せたのでしょう。

舞台になかったこのエピローグが、私はとても好きですね。人が気配のする街の中で別れたなら、新しい温もりをつかめる気がするので。

 

パンフレットと舞台を比べながら、もう少しそれぞれの物語を想像してみます。

🔶時子さん(高橋由美子

演目のタイトルが「時子さん・・・」なので、つい敬称で呼んでしまいます。

息子の年齢から、時子さんは30代半ばから40代。舞台では自分のことを「おばさん」と言い、人前では元気そうな女性でした。ただ、これは時子さん自身が捉えた自分の姿です。

パンフの写真では一転。スリップドレスで翔真に寄り添い、おばさんでもママでもない女を感じさせる人でした。翔真と出会う前の神経質そうで孤独な姿、出会って満たされた頃のやわらかい表情、そして別れの時の諦めが痛々しく伝わります。

時子さんはもともと自己評価の低い人だったのでしょう。その原因はわかりませんが、周囲の評価に影響されすぎ、すぐ「私が悪い」と謝って逃げてしまう。離婚後に就いた仕事もスーパーのパート→パチンコ店→スナックの店員と、一人で安定的に生活していくには心もとない。最後に息子との関係が修復できますが、今度は息子に依存しそう。コロナでスナックの経営も危うく、これからどうやって生きていくのだろうと心配になります。

でも自分では辛い、寂しいと思いつつ、実際には周囲に心配してもらえるところが、この人の逞しいところかもしれません。

 🔶翔真(鈴木拡樹)

パンフの写真は演じる鈴木拡樹さんの色が濃いためか、全くクズには見えません。

翔真の年齢は20代前半からちょうど30歳くらい。今の人たちならやっと世の中に出て大きく成長する年代ですね。人として未熟なのは仕方ないでしょう。

 写真の翔真はアーチストの面構えをしていて、本当に音楽に向き合っていたと思えました。時子さんは翔真の売れるかどうかではなく、彼の音楽そのものを素直に好きでいられればよかったのにね。

舞台で翔真が時子さんにキスしようとする場面がありますが、時子さんに対して何がしてあげたかったのかな、という気がしました。翔真から見た時子さんは、母親の代わりではけっしてなく、パンフのように繊細で妖艶な女性だったのかもしれません。

🔶NPOの柏木(矢部太郎

舞台ではお節介きわまりない人。でもパンフの写真は哀しそうにどこかを観ています。この人こそ、虚無的な匂いがします。本当は「契約のような決まりごとはどうでもいい」と感じているから、その「どうでもいいこと」に人生の時間を使うタイプに見えましたけど。

🔶スナックのママ・スーパーの先輩

舞台で演じた伊藤さんの声がとても可愛らしかったので、ちょっとイメージが混乱しますが、まあ誰にでもある程度の黒い部分を持った人かな。この人の写真は、世の中が変わることに少し怯えているように見えます。「ソーシャル、ソーシャル」のセリフが耳に残りました。

🔶時子さんの元夫(山口森広)

山口さんは1人で4役演じられているので、パンフの写真はキャクターを特定しにくいですが。。。ガッツのある働き盛りのイメージですね。とはいっても、元夫はマザコンなのでしょう。舞台の終盤で時子さんに「翔真ではなく息子のことを考えろ!」と怒った時、かつては自分が甘えたかったのだろうなと、ゾッとしました。

妻に甘えたいばかりで、妻を受け止めることはできなかった。そしてDVに走って離婚。この夫婦は、もうちょっと何とかならなかったのかしら。

🔶小夏(豊原江理佳)

パンフの江理佳さんはすごく清楚で美人!!舞台の小夏ちゃんは、オラオラとまくしたててましたが。小夏は夫も子供も翔真も、みんな好きですよね。パワフル、愛情のかたまり。でも一緒に全部は手にできないので、いらいらしていたのかも。

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こうしてみると、登場人物一人ひとりの人生はなにかと興味深いです。

舞台が終わってから2か月近く経つのに、まだ引きずっている感情があり、書き留めなければ私自身が次に進めないような気がしていました。この冬もコロナ禍のダメージが続きそうですが、ディスクが発売されたら、もう少し冷静に観たいと思っています。